095権上康男編著『新自由主義と戦後資本主義――欧米における歴史的経験――』

書誌情報:日本経済評論社,xvi+436頁,本体価格5,700円,2006年12月15日

新自由主義と戦後資本主義―欧米における歴史的経験

新自由主義と戦後資本主義―欧米における歴史的経験

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新自由主義市場原理主義と等値させることは正確ではない。新自由主義は20世紀末以降における資本主義を主導する思想ないしは政策としながらも,統一した記述内容で規定されてはいない。
本書は,「新自由主義のいわばプロトタイプ」をさぐるべく資本主義の歴史的展開のなかに位置づけようとしたものである。1930年代から40年代にかけてのルイ・ルージエが組織した「リップマン・シンポジウム」とハイエクを会長に設立された「モンペルラン協会」から70年代までの欧米の理論と政策構想・政策実践を追って,新自由主義が「積極的な国家」を認めること,ケインズ主義の行き詰まりから生まれたものでもなければ,アングロサクソン諸国だけを起源としていないことを確認している。
本書は,「歴史文書にもとづく新自由主義の理論と政策実践の歴史に関する組織的な研究は,本研究をもって嚆矢とする」(はしがき)としているように,西洋経済史を専攻とする専門家による,新自由主義の体系的研究書だ。新自由主義がおおむね4つの構成要素((1)公準としての価格メカニズムないしは市場経済,(2)「制度自由主義」的性格,(3)社会政策の有用性,(4)「自由主義的介入」)と3つの類型((1)フランス・グループ,(2)ドイツ・グループ,(3)英米グループ)を抽出し,新自由主義を整理している。いま新自由主義が喧伝され,多くの批判がある。新自由主義が歴史研究から照射された本書によって,新自由主義そのものの多面的検討と1980年代以降現代にいたる検証に手掛かりを与えてくれるはずである。

部・章 タイトル 執筆者 所属
- はしがき 権上康男 横浜商科大学
第I部 新自由主義の歴史的起源
第1章 新自由主義の誕生(1938〜47年)――リップマン・シンポジウムからモンペルラン協会の設立まで―― 権上康男 -
第2章 ウオルター・リップマンと新自由主義 西川純子 獨協大学(名)
第3章 ドイツ新自由主義の生成――資本主義の危機とナチズム―― 雨宮昭彦 首都大学東京
第4章 アメリ新自由主義の系譜――ニューディール金融政策と初期シカゴ学派―― 須藤 功 明治大学
第5章 ベルギー新自由主義の軌跡――ポール・ヴァンゼーラントの活動を中心として―― 小島 健 立正大学
第II部 新自由主義と戦後資本主義
第6章 戦後西ドイツにおける新自由主義社会民主主義――社会的市場経済社会主義市場経済と1957年「年金改革」―― 福澤直樹 名古屋大学
第7章 1950年代西ドイツにおける内外経済不均衡――「社会的市場経済」のジレンマ―― 石坂綾子 愛知淑徳大学
第8章 戦後フランスにおける新自由主義の実験(1958〜72年)――3つのリュエフ・プラン―― 権上康男 -
第9章 ヨーロッパ石炭鉄鋼共同体における新自由主義(1953〜62年)――リュエフの経済思想と石炭共同市場―― 石山幸彦 横浜国立大学
第10章 ユーロ・カレンシー市場と国際決済銀行――1950〜60年代の新自由主義と国際金融市場―― 矢後和彦 横浜国立大学
- 総括――論点の整理―― 権上康男・石山幸彦 -
人名索引
事項索引