214渡辺尚志著『百姓の力――江戸時代から見える日本――』

書誌情報:柏書房,243頁,本体価格2,200円,2008年5月25日発行

百姓の力―江戸時代から見える日本

百姓の力―江戸時代から見える日本

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江戸ブームだそうだ。出版物も「江戸」と名乗ればそこそこ売れる。江戸はるみは江戸ブームとは別だろうけれど。
本書は江戸時代の村を扱ったもので,近世の地方史研究から生まれた江戸村本だ。小農(小百姓),豪農(上層百姓),村(村落共同体),地域社会に焦点をあて,土地,入会地,年貢,村落共同体,領主と百姓,組合村といった村社会の様相を紹介している。江戸時代には村は約6万3,000あったという。耕地は個人に帰しながら村全体の共有物であるという一種のセーフティネットを持っていたことは,村落共同体を前近代性とだけ見てしまいがちだけに貴重な指摘だ。土地は共有財とする思想と制度は,土地が幕府・領主との重層的関係のもとにあったことをものがたるものだ。現代人は村落共同体がもっていた共同性と公共性から無縁の時空にいるわけではない。
維新改革によって近代的土地所有権(個人の排他的な土地所有権を内容とする)が確立したと知ってはいても,江戸時代の実相,とくに百姓については意外なほど知らない。お江戸の真ん中(=消費世界)ではなくその江戸を支えた百姓の世界(=生産現場)をのぞくのに最適の本だ。