244春名徹著『北京――都市の記憶――』

書誌情報:岩波新書(1126),vii+239+5頁,本体価格780円,2008年4月22日発行

北京―都市の記憶 (岩波新書)

北京―都市の記憶 (岩波新書)

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北京に行く前に読むべきだった。時間軸を過去と現在に交差させ,北京という都市を読み解く試みだ。先入観なしで,ほんの短い時間ながら散策できた王府井,王府井教会,王府井小吃街,天安門広場,人民英雄記念碑,故宮,国子監・孔子廟を,歴史の息吹のなかに再確認し冷静に見つめることができた。
今回見ることができなかった故宮の多くの宮殿や景山公園,什刹海,天壇,北海公園,頤和園,西山,八達嶺長城,明の十三陵などの描写も詳しい。博物館と北京に住んだ老舎,魯迅,林則徐,莫言などへの言及もうれしい。
故宮をして「外朝の権力を飾りたてるための壮大な仕掛けと,私人としての隠退した皇帝の居住する空間の圧縮されたたたずまいとの対比」(96ページ)との評や改革開放以後の急激な都市化への視点など旅の記録として秀逸だ。
「旅の物語は,いまここにいる《わたし》が,ここにはいない《あなた》にたいして抱く切実な不在の感覚に支えられている」(iiページ)。なるほど網羅的な「歩き方」とは違う,著者の眼で見た北京がここにはある。
それにしても北京に行く前に読むべきだった。