317古田裕清著『翻訳語としての日本の法律用語――言語の背景と欧州的人間観の探求――』

書誌情報:中央大学出版部,v+189頁,本体価格1,800円,2004年11月15日第1刷;2005年9月20日第2刷;2008年9月1日第3刷発行

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民法総則・物権・債権の法律用語は,9割がドイツ語からの翻訳語,残りのほとんどがフランス語からの翻訳語だそうだ。日本の主だった法律用語は,7割がドイツ語,民法だけでいえば9割以上である。憲法刑事訴訟法会社法では第二次世界大戦後英語から翻訳されたものが多い。
ドイツ語やフランス語の法律用語は,日常語である。日本の法律用語が日常的意味とは離れたところで成立するのと好対照だ(民法口語訳化は日常語化への第一歩といえる)。本書は,法律用語を言語に戻し,日常に根ざした「哲学的人間観」から照射することで法律用語の理解を進めようとの意図をもっている。柳父章の翻訳論,文化論の法律用語版といえるだろう。
たとえば,資本主義はなぜ労働所有説を土台にしているか(「所有」と「占有」に詳しい),保障と保証の違い(「担保」に詳しい),公法と私法の区別(「不法行為」に詳しい)など,上滑りしがちな法律用語をしっかり押さえることができる。
上記以外の項目は,「法」と「権利」,「契約」,「人」,「意思表示」,「法律行為」,「債務」と「責任」,「組合」と「会社」,「公序良俗」である。小著ながら,付録の357用語の原語・原意対照もかなり使える。