408田中秀臣著『偏差値40から良い会社に入る方法』

書誌情報:東洋経済新報社,xii+211頁,本体価格1,400円,2009年12月3日発行

偏差値40から良い会社に入る方法

偏差値40から良い会社に入る方法

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あの田中さんが書き下ろしの就活本を書いた。「就職コア層」2万人以外のふつうの大学生向けの就活応援本だ。偏差値40はあくまでもキャッチコピーで真に受けてはいけない。たしかに「就職コア層」を優先して採用するごく一部の大手企業は存在する。それ以外の企業,大多数の企業については,みなにチャンスがある。
新卒世代がゆとり世代に属していることや長期不況というトレンドにあって,就職戦線の厳しさにも触れながら,自己分析の欺瞞性や就職非コア層の就活の特徴を見事に言い当てている。良い会社を見つける世間知――商人道型企業,残業時間,離職率,年齢構成と男女比,有休消化率など――は,具体的なだけでなく,評者の就活アドバイスとまったく同じだ。学生がアピールしがちなサークル活動やアルバイト経験,資格取得などよりも,コミュニケーション能力,積極性,やる気が評価されるという指摘も評者の実感と合う。コミュニケーション能力とは人間関係上のごく当たり前のマナーとかやってはいけない「べからず集」が基本であり,そのコミュニケーション能力は大学の講義やゼミで養われ,何をどのように学んだかを明確に言うことこそ学生のコンピタンシーという主張も頷ける。
就活の背景にある雇用状況の分析は,Economics Lovers Live の田中さんならではだ。あわせて教員の専門を知るべしという学生への助言,「自分で考えろ」指導の暴力性の挿話などなど学生と教員へのエールがいくつも散りばめられている。
言語化しえないまま評者の胸にしまったいた就活論を展開してくれた思いがあり,草稿段階で読む機会を与えてくれた田中さんにはこちらからお礼を言わなければならない。「学生たちの就職という問題は,待ったなしで私の目前にあ」(あとがき)る。ほんとは就活の実態をよく知らない大学教員が真っ先に読まないといけない本だ。