書誌情報:岩波書店,xi+310頁,本体価格2,600円,2009年9月4日発行
- 作者: 橘木俊詔
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2009/09/04
- メディア: 単行本
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戦前の帝国大学,東京帝国大学時代から戦後の東京大学にいたるまでトップの座を占め,エリート養成機関として君臨してきた東京大学のこれまでとこれからを論じている。天野本(下記エントリー参照)に比べれば,高等教育政策とそのなかでの官公私立の高等機関との関連からの視点は弱い。官僚人材養成機関としての特徴,戦前からの学内抗争,いくつかの分野でトップの座を奪われていることなど,具体的な登場人物中心の叙述だ。
総務・企画・人事・労務などの管理部門重視の経営から営業が重視されることになった経営環境と官僚統制の弱化によって必ずしも東京大学卒業者が優遇されなくなったという指摘もある。
東京大学の学歴とエリート効果の紹介が評者の目に留まった。1969年の東京大学入試が中止となり,かなりの受験生が京都,一橋,東京工業などの各大学に流れたと言われる。それらの大学の卒業生が社会に出てどの程度「出世」したかを検証した論文があるという(D. Kawaguchi and W. Ma, 'The Casual Effect of Graduating from a Top University on Promotion: Evidence from the University of Tokyo's 1969 Admission Freeze', in "Economics of Education Review", 2009)。これによると,(1)中央官庁に進んだ人は出世の程度が低い,(2)上場企業での管理職昇進において出世したという証拠はない(85ページ)。(1)は官庁での出世が東京大学卒ということが影響し,(2)は本人の能力と努力がものをいう,と分析できる。東京大学卒業という履歴は官界において出世の条件であり,民間においてはかならずしもそうではないと解釈している。
著者は,東京大学がエリートであり続ける分野は,司法界,医者,研究者と予想し,どうしても東京大学でないといけないとしたら難関の大学入試を避けて大学院から入る手もあると提言している。「大学の群雄割拠の時代」(「おわりに」)へとシフトしつつあるとの見方は共有できそうだ。
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