455堤未果著『ルポ 貧困大国アメリカII』

書誌情報:岩波新書(1225),iii+216頁,本体価格720円,2010年1月20日発行

ルポ 貧困大国アメリカ II (岩波新書)

ルポ 貧困大国アメリカ II (岩波新書)

  • 作者:堤 未果
  • 発売日: 2010/01/21
  • メディア: 新書

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ちょうどアメリカでは医療保険制度の改正が下院を通り,大統領の署名を待つばかりになった。4600万人の無保険者の解消ということでは意味ある改正である。オバマの医療改革は,もともと単一支払い皆保険,公的保険・民間保険併用,既存の民間保険という選択肢があった。それが最初の選択が排除され,医療保険会社や製薬会社(オバマ大統領実現の資金源のひとつ)との妥協の産物でしかない限界も冷静に見ておかなければならないだろう。
この「医産複合体」との緊張関係を含んだ医療保険の現状(第3章),借金漬け学生を増大させてきた学生ローンの実態(第1章),GMの破綻を例にした社会保障の崩壊(第2章),囚人たちを対象にした国内アウトソーシング=刑務所産業複合体(第4章)といずれもオバマ政権下でも進行中の市場原理が扱われている。前著がブッシュ政権下の新自由主義的改革を「暴走型市場原理システム」として批判的に描いた。本書は「チェンジ」を標榜して登場したオバマ政権下にあっても基本的には変わっていない「市場原理システム」を描いたといえる。
第2章はGMの労働者高待遇政策が破綻原因とも読めるが,企業年金に過度に頼るとどうなるかの見本,公的年金制度の機能麻痺を指摘しているのだろう。
「過度な市場原理が支配する社会では,政治と企業はとても仲が良い」(194ページ)。同時に,「チェンジ」するのは大統領の肌の色ではなく,貧困を意識しそれに喘いでいる人であることを教えている。
医療保険も有給もなく」(79ページ)の「有給」は「有休」,また「単一払い皆保険制度」(119ページ)は「単一支払い皆保険制度」だろう。いずれも誤植。