500内田樹・石川康宏著『若者よマルクスを読もう――20歳代の模索と情熱――』

書誌情報:かもがわ出版,239頁,本体価格1,500円,2010年6月20日発行

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マルクス(とエンゲルス)の20歳代の作品(『共産党宣言』,『ユダヤ人問題によせて』,『ヘーゲル法哲学批判序説』,『経済学・哲学草稿』と『ドイツ・イデオロギー』)を素材にしたマルクス入門書である。
石川が第1バイオリンを弾き,作品の背景と解説を,内田が第2バイオリンを弾き,作品へのコメントを,書簡形式で展開している。「マルクスはぼくの問題を解決してくれない。けれども,マルクスを読むとぼくは自分の問題を自分の手で解決しなければならないということがわかる」(39ページ,すべてに傍点)と内田の第2バイオリンが語る。マルクスユダヤ人問題についてのやりとりのなかで,「対話におけるディセンシー(礼儀正しさ)はしばしばそこで交わされている意見の当否や命題の真偽よりも重要である」(146ページ)との意見や疎外論への「疎外論の出発点が「自分の悲惨」ではなく,「他人の悲惨」に触れた経験」(152ページ,ともに内田)だという解釈などは,内田の第2バイオリンの特徴が前面に出ている。
大昔のこと,『社長さん! つべこべいわずにパソコンはMACを使いなさい』(原田進著,明日香出版社,1994年1月,[isbn:9784870306929])なんておもしろい本があった。若者よ,なにはともあれ,「いいから黙って読みなさい」(帯の惹句)は評者も大賛成だ。マルクスを読んでくれたら,本書を立ち読みしたとしても著者たちにとっては本望だろう。
ふたりの参照した邦訳書がバラバラなのがいい。「いずれにも数種類の邦訳が存在する」(233ページ)と書きながらそれで止まっている編集部は「いいから黙って読みなさい」と言うにはあまりにも不親切だ。古本屋でしか手に入らない,こんな新訳があるよ,などと紹介があってはじめて若者はマルクスを読む気になるのではないかと思う。