534海野弘著『名門大学スキャンダル史――あぶない教授たちの素顔――』

書誌情報:平凡社新書(544),222頁,本体価格760円,2010年9月15日発行

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ブルデューの「固有名詞を含まない歴史」ではなく,「固有名詞を持った,名も顔もある人間」,「おかしな,あやしい,あぶない,とんでもない教授」,「おかしな,あやしい,とんでもない,あぶない,変な,面白い教授」(「プロローグ」)の生態を描く,というが,それほどスキャンダルではない。著名大学教授から見た大学(史)ともいうべき内容の本だ。
オックスブリッジを対象に大学と大学教授が威信をもつにいたった経緯をとば口に,ニュートン,スウィフト,サミュエル・ジョンソン,ジョン・ヘンリー・ニューマン,ジョン・ラスキン,ウォルター・ペイター,ルイス・キャロルケインズバートランド・ラッセルなどが各種エピソードで綴られる。
アメリカではハーバードとエールからエリオット,ローエル,ガルブレイスチョムスキーらが登場する。ニューディール政策時と大量に学者を動員したケネディ政権時の大学人模様が中心になっている。
「大人の幼稚園」(124ページ)である大学の「奇妙な,あやしい,危ない教授たちの巣窟」(「エピローグ」)から見えてくるものは多くない。名門大学にはびこるという秘密結社陰謀説が奇妙に浮かび上がってくるばかりだ。
経済学者としてはスミスが18世紀のオックスフォード批判,王立協会と文学クラブの文脈で,J・S・ミルが1865年のジャマイカ虐殺の審問で,ケインズニュートン文書とブルームズベリーで,それぞれ触れられている。あぶないわけではない。