536平井正治著『無縁声声――日本資本主義残酷史――』<新版>

書誌情報:藤原書店,379頁,本体価格3,000円,2010年9月30日発行

無縁声声 新版―日本資本主義残酷史

無縁声声 新版―日本資本主義残酷史

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13年前に出たときは本書の存在に気がつかなかった。新版になってはじめて読んだ。住民登録を敢えて拒否し釜ヶ崎のドヤ――宿をひっくり返したヤクザの隠語からはじまる――の三畳一間に40年以上住み,昼は日雇い労働,夜は研究,休日には調査。現場から見た資本主義発達史だ。大阪の都市形成の裏面史とも読める。道頓堀,万博会場,歩道橋など著者の博覧ぶりの一端も垣間見ることができる。
生い立ちからはじまり,松下電器時代の共産党員としての活動とリンチ除名になる青春期,1960年代の釜ヶ崎暴動,港湾労働やタコ部屋の現場労働,華やかな博覧会建設ブーム下の現場労働,神戸震災でのドヤの排除など「よう見てみィ,これが現場労働や!」そのものだ。
「バカでなれない,利口でなれない,半端でなれない」ヤクザや手配師が跋扈する建設・港湾労働の現場は先進工業国・日本の隠せない現実である。骨抜きになった港湾労働法,労働災害を人柱にした作業もまた労働者の権利などどこふく風である。炊き出しでの平井の思いはなにかを言い当てている。「とにかく炊き出しに来てる人で,一緒に食べてる人は少ない」(365ページ)。
「日本の近代化は明治の鉄道工事から始まるんやけど,この百年間,労働の近代化はされていない」(278ページ)のだ。戸籍上の名前に戻らず無縁のままの生きざまは,この国の最底辺をずっと告発していくだろう。