549山内祐平編著『学びの空間が大学を変える――ラーニングスタジオ/ラーニングコモンズ/コミュニケーションスペースの展開――』

書誌情報:ボイックス,186頁,本体価格1,886円,2010年5月21日発行

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ひと頃の大学の学びの空間は,人文・社会科学分野では講義室(しかも大講義室)と演習室があれば事足りた。大規模大学になればなるほど学生個人の知識獲得のための講義型教育が徹底された。演習(ゼミ)を必修とする大学においてもゼミ時間以外に使える演習室はないのが普通だった。一ゼミ一演習室を実現した大学もあるが,学生を主体に考える学習空間は貧弱このうえなかった。図書館の自習スペースか自宅(自室)での自学が学びの前提となっていた。「現在の教室や図書館は,100年前からほとんど形が変わっていない」(15ページ)のだ。
本書のポイントは能動的学習を支援する新しい教室=ラーニングスタジオ,情報を活用した学びの空間・図書館=ラーニングコモンズ,対話型の学びのためのコミュニケーションスペースという新しい学びの空間の創造におかれている。駒場アクティブラーニングスタジオ(東京大学),マイライフ・マイライブラリー(東京女子大学),公立はこだて未来大学を3つのケーススタディとして,従来の教室・図書館・交流の場の変革模様を紹介しつつ,学習空間の再設計に挑んでいる。
本書の主眼はとりあえず空間設計にあるとはいえ,学びの共同化や能動化,さらには大学の地域における知拠点化などハコモノづくりにとどまらない認知科学の知見をふまえた実験的試みでもある。
大学がどのような学びを実践しているのか。ひとつの答えは間違いなく学びの空間とそれを支える教職員・学生による共同体づくりにある。「学びの空間が大学を変える」。ラーニングスタジオならまずは1教室の改装,ラーニングコモンズなら図書館の一部の改装,コミュニケーションスペースならラウンジ的なスペースの創出から始める。背伸びせず小さな一歩の勧めは実現可能な提案だ。