書誌情報:ちくま新書(862),270頁,本体価格820円,2010年9月10日発行
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「ウェブの進化」と「教育の進化」をテーマにした本書のきっかけになった MIT の OCW (オープン・コース・ウェア)については,評者も大きな可能性を感じていた。1996年に MIT に行ったとき日本語ラーニングシステムを構築していた宮川繁さんに会うことができた。その名も「七夕プロジェクト Star Festival」と命名していた。その後宮川さんは2001年4月〜 MIT の OCW の中心を担うことになり,10年後京都でインタビューすることができたのだった(佐伯胖,植村八潮とともに。「MITオープン・コースウェア(OCW)の衝撃と展望――宮川繁さん(MIT 教授)に聞く――」『コンピュータ&エデュケーション』第21号,2006年12月1日発行→(目次のみ)http://www.ciec.or.jp/ja/ce_nl/cmp_edu/vol021/21contents.pdf)。
「ウェブの進化」は現代のスーパーパワーたるグーグル,アップル,アマゾンが牽引し,フェイスブック,ツイッターが追うという時代状況をおさえ,ウェブが持つ「人生の増幅器」に可能性を見る。学びの可能性だけでなく,学びの同志を得る可能性を持つ「志向性の共同体」,さらにはリアル世界での職を得る・生計を立てる道筋を展望している。
オープンエデュケーションについては二人の対談が詳しく語っている。アメリカ東部のエスタブリッシュメントと西部のカリフォルニアン・イデオロギーの融合として見る観点,オープンエデュケーションのアメリカ型とヨーロッパ型(イギリス型とEU型)との対比,成長段階仮説(構想からはじまり一部から高く評価される段階,世界を変える段階の3段階),営利型オンライン大学とオープンエデュケーション,クリエイティブ・コモンズとオープンエデュケーション,イリイチ「脱学校論」の現実化,教えと学びの関連,学生・院生メンターの役割,非営利・グローバル世界の可能性などに触れ,「日本語圏のウェブ世界からはまったく見えない大変化が,世界では着実にしかも急激に起きていること」(おわりに)を伝えている。
「リアル世界で積極的に行動することが重要」(28ページ)と説き,「実践を伴うコミュニティ」(210ページ)づくりを指摘するのを忘れてはいない。インターネット前時代の「たこつぼ」状態にあったコンピュータの教育利用から「教育におけるテクノロジーのルネッサンス」(254ページ)の見通しには共感を覚えるところだ。
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