620松石勝彦編著『現代の経済学入門』

書誌情報:同成社,vi+310頁,本体価格2,700円,2010年4月15日

現代の経済学入門

現代の経済学入門

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資本論』の概念を使って現代資本主義を分析する。編者の『現代経済学入門』(青木書店,1988年,[isbn:9784250880414];第2版,1991年,[isbn:9784250910111];新版,2002年,[isbn:9784250202087])はこれを実践した著作だった。『資本論』の祖述ではなく,現代資本主義の実例を通して『資本論』を理解しようという試みは意外なほど少なく,編者の著作は質の高い『資本論』入門書だった。
漫画や概説本の類よりもはるかに『資本論』第1巻のエッセンスを理解できるのは,われわれが普段接している身近な商品や実例が豊富だからだ。本書にもその編集方針は貫かれている。「資本主義の諸矛盾と限界を的確に解明する古典」としての『資本論』の応用である。商品論に国内総生産やグローバリゼーションを入れ,貨幣論に現代の通貨制度を分析し,貨幣の資本への転化論に利子生み資本とサブプライム問題を視野に入れ,賃金論に派遣労働・業務請負・契約労働などの現代的雇用形態を位置づけるなど工夫もみられる。
現代日本資本主義を対象に『資本論』の概念をそのまま応用してみようというギリギリ感とスリル感がたまらない。労働者の組織化が肝要だというにとどまらず,マルクスが『資本論』で析出した人間発達の諸契機とその可能性にも触れてくれたら御の字だ。