650高史明著『闇を喰むI・II』

I:書誌情報:角川文庫,344頁,本体価格705円,2004年11月25日発行

II:書誌情報:角川文庫,446頁,本体価格819円,2004年11月25日発行

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在日朝鮮人の「小悪人」として戦中を生き,人類解放を夢みて武装闘争方針の共産党に加わる。日本の行く末に大きくかかわる「絶対戦争」に翻弄され,いくつもの闇を喰んだ著者の自伝的小説は,暗いだけではない。在日を越えた人間として迎えられる人との出会いがその都度光となる。個人の闇と同時代の闇とがくどいほど往還的に描き込んでいるのも特徴だ。
戦後直後に朝鮮人暴動の共同謀議容疑で逮捕されたときの話である。警察署の地下室に閉じ込められていたとき,「キン・テン(著者のこと:引用者注)は何処だ!」と駆け込み,釈放を求めた老人がいた。「戦中に大学生であった息子を,獄死させられていた著名なF・T弁護士」(II,50ページ)はかの布施辰治である。地下室の暗闇は布施の登場によって明かりであり,著者に新しい歩みを促したのだった。全編で描かれる暗闇の深さは在日と武装闘争をめぐる共産党の意味をこれでもかと問う。
「人間世界は絶望的に暗い。しかし,それゆえに生きるに値している」(II,422ページ)に著者の思いが詰まっている。