書誌情報:旬報社,205頁,本体価格1,300円,2012年5月14日発行
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大学生本≒就活本に食傷気味だったところにオーソドックスながらとにかく読んでもらおうという工夫を施した大学生本の登場だ。11のキーワード――労働,貧困,大人,資本主義,福祉国家,新自由主義,生活,家族,女性労働,グローバリゼーション,ナショナリズム――と9のコラムで現代日本社会を読み解き,社会科学の概念と認識を獲得しようという思いが伝わってきた(旬報社→http://www.junposha.com/catalog/product_info.php/products_id/756)。キーワードを各章に割り振っているのは当然として,見出しの大きさと字体の種類の選択は黒衣役の編集者の,執筆者と同走したいという気持ちのあらわれだろうか。
社会で生じていることをいろいろ知っていることと社会科学とはちがう。生きて学び働いている社会は予定調和で決まっているわけではなく,現実の政策や政治によって変わりうる。現実をきちんと受けとめ,ときには本質を知るために学ぶことも必要になるし,なにかを変えるための行動も必要になる。「現代の新自由主義改革や資本主義のあり方に批判的な関心をも」(あとがき,204ページ)った座標軸のうえで福祉国家を構想する希望のありかは明確に提示されている。
11のキーワードとともに,ちょっとだけお姉さん,お兄さん世代の著者たちの視線はきっと近いところで大学生の意識と交差するはずである。若い読者を想定した構成と叙述には好感をもつものの,若い時代に得た知識と学びの方法は社会人になっても生かすことができることや学びのわくわく感が醸し出されるといい(コラムで大学での学びの意味について言及がある)。
読書案内やつぎのステップへの誘いはあえて省いたようだ。本書をてがかりにあとは自分で調べろ,と意図的に突き放ししたのなら,これも立派な社会科学入門だ。
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