757デヴィッド・ハーヴェイ著(森田成也・中村好孝訳)『〈資本論〉入門』

書誌情報:作品社,549頁,本体価格2,800円,2011年9月20日発行

〈資本論〉入門

〈資本論〉入門

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評者が著者を知ったのは経済地理学者としてであり,マルクス理論を基礎に都市空間論や帝国主義の地理的不均等発展論の提唱者としてであった。資本主義で生じた問題の解明というすぐれて実践的な関心からであった。「労働日」の項にはこうある。
「この30年間に,新自由主義反革命規制緩和を推進し,グローバリゼーションを通じてより立場の弱い労働力を追求した結果,マルクスの時代に工場監督官があれほど鮮やかに描き出したような状況が再発するに至っている」(244ページ)・「現代における労働慣行の多くが,労働日に関するマルクスのこの章の説明とほとんど違っておらず,きわめて容易に現代の状況をこの章に挿入することができる(中略)。われわれは,新自由主義反革命と労働運動の無力化のせいで,このような状況に連れ戻されてしまった。悲しむべきことだが,マルクスの分析は現代におけるわれわれの状況にあまりにもぴったりとあてはまるのである」(245ページ)。「労働日」を歴史的叙述とせず現代の問題と読み込む著者の力点が本書の魅力のひとつだ(評者の読み方は関連エントリー「『資本論』,そして「労働日」――経済学対話――」参照)。
著者の『資本論』読解は「中立的な解釈」(11ページ)ではない。「私が強く望むには,自分たち自身の生活を取り巻く特定の状況の中で,自分たちにとって最大限有意義で役に立つような解釈を構築したいと切望している他の人々に,私自身の観点を一つのてがかりとして利用してもらうこと」(12ページ)。『資本論』の解説や手引きとしても著者の長年にわたる『資本論』読解の一書――階級闘争の強調,弁証法の応用,ジェンダー視点,フーコーとの接点,そして恐慌論――としても読める分厚い一書である。
実際の講義の動画配信は本書の原型をなす第1巻部分だけではなく,第2巻部分も公開されている(→http://davidharvey.org/reading-capital/)。「高度に」発展した資本主義・日本で,現在でも全国各地で無数の『資本論』学習会が続いている。著者が「労働日」で発見した「政治力学(ポリティックス)」に繋がっている。「労働日の政治力学(ポリティックス)が資本をそれ自身の自己破壊的傾向から救い出すために発生してきたのと同じように,ここでもまた,この政治力学は今度は,資本主義システム全体を転覆するという労働者階級の政治力学の核心部分を内包している」(350ページ)。