800西野嘉章著『モバイルミュージアム 行動する博物館――21世紀の文化経済論――』

書誌情報:平凡社新書(663),229頁,本体価格760円,2012年12月14日発行

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かつて「モナリザ展」(1974年)は入館者数150万人を超え,展覧会史に名を残した。フェルメール作品「真珠の耳飾りの少女」を売りにした,昨年の「マウリッツハイス美術館展」(都美術館,6月〜9月)は71日間の会期で入館者数75万人を数え,都美の1日平均入場者数記録を塗り替えた(朝日新聞デジタル:「美術館展」人気だけど… 手軽な貸し館化? 背景は」2012年12月12日付より)。日本で名作を鑑賞できる冠展は新聞社やテレビ局の助けを得て「貸し館」・「欧米の美術館の,いわば引っ越し興行」であることに疑いはない。
本書も冒頭こう書く。「一大文化イベントとしての展覧会は,公衆の啓蒙や啓発に資するという社会教育上の貢献を別にして,ミュージアムになにか恩恵をもたらしているのであろうか」(13ページ),「打ち上げ花火として終始する特別展のあと,ミュージアムには財産としてなにが残るのか」(同)と。「大規模ハコモノ集中型」から「中規模ネットワーク分散型」を経て「小規模ユニット遍在型」を展望する本書は,展覧会やイベントを企画して入館者を増やす集客システムを変えようとの問題意識に支えられている。「イベントの経済学」から「総事業価値の経済学」の提唱は,観光,伝統文化,技術継承,地域的アイデンティティを含む全体としての事業を考える。
東京大学総合研究博物館(開館時に見学したことがある)の経験を踏まえた「モバイルミュージアム」論は各所での学芸員への鼓舞だけでなく館蔵品という名の公共財の所有者であるわれわれにも無関係ではありえない。「展覧会図録の巻末に附される展覧会一覧,参考文献一覧には,原則として,過去の事跡がすべて盛り込まれる。実態はともかく,理念上,最新の展覧会には,それまでの研究成果が丸ごと包摂されていなくてはならない」「展覧会は過去から現在に至るまでの関連情報をストックする機会」(94ページ)の指摘は,展覧会鑑賞記と図録を合わせて紹介してきた評者の問題意識とぴったり重なっている。
ユニバーシティ・ミュージアムの試行とそこから生まれた「モバイルミュージアム」の発想は美術館にも博物館にも文書館にも動物園にも植物園にも(幼稚園は無理かも)生かすことができる。