870岡本隆司著『ラザフォード・オルコック――東アジアと大英帝国――』

書誌情報:ウェッジ選書(44),253頁,本体価格1,400円,2012年4月30日発行

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富士山の世界文化遺産の登録と同時ににわかに脚光を浴びた外国人のひとりが本書の主人公オルコックである。最近見たテレビではNHK歴史秘話ヒストリア」(9月4日放送,「富士山に魅せられて――日本一の名峰を巡る人々の物語――」→http://www.nhk.or.jp/historia/backnumber/176.html)では「日本を救った富士登山」として登場したし,TBS「世界ふしぎ発見(9月7日放送,「世界文化遺産登録記念!外国人初!幕末のFUJIYAMA登山」→http://www.tbs.co.jp/f-hakken/bknm/20130907/p_1.html)ではオルコック(番組ではオールコック)その人を中心にしていた。
いずれも外国人初の富士登山をした人物として描き,オルコックやイギリスの対日観に影響を与えた出来事として取り上げていた。
評者のオルコックへの興味は,マルクスの日本にかんする知識はオルコック著『大君の都』(岩波文庫(上)[asin:B000JAKTFM],(中)[asin:B000JAKUM4],(下)[asin:B000JAK1LY])だったことを知ってからだった。その後,佐野真由子著『オールコックの江戸――初代英国公使が見た幕末日本――』(中公新書1710,2003年8月刊,[isbn:9784121017109])や旅行記録『長崎から江戸へ――1861年日本内地の旅行記録――』(露蘭堂,2011年11月刊,[isbn:9784904059524]),『富士登山と熱海の硫黄温泉訪問――1860年日本内地の旅行記録――』(同上,2010年12月刊,[isbn:9784904059517])を手にしたのだった。
本書は個人の資質と役割が大きかった時代制約のもとで厦門,福州,上海,広州,そして横浜で領事・総領事や公使として大英帝国の尖兵役をつとめたオルコックに焦点を当てた,オルコック評伝であり「特殊な角度からみた日中の開国史」(8ページ)である。
ともに富士山に登り,熱海の間欠泉を浴びて死んだという愛犬トビーのエピソードはテレビに任せるとして,イギリスの帝国支配の野望と日中の対応に本書の主人公オルコックをいまいちど置いてみる重要性を教えてくれる本になっている。ミカド,大君,大名という幕藩体制統治機構の特徴を知るまでのオルコック描写は著者の確かな視点を感じさせる。