951ピーター・へスラー著(栗原泉訳)『北京の胡同』

書誌情報:白水社,304頁,本体価格2,200円,2014年3月5日発行

北京の胡同

北京の胡同

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原書名は Strange Stones であり,湖北省の怪しげな地区での奇石の店での出来事から付けたようだ。その店は商品を載せたテーブルを並べ狭いすき間を出入り口にしている。店に入ってきた外国人の背後でテーブルをひっくり返す。ぶつかったといって弁償させる詐欺というわけだ。
平和部隊に加わり,1996年から2年から重慶市のとある町の大学で英語を教え,その後も中国に留まりフリー・ライターとして活躍した。本書は2000年から10年にわたって『ニューヨーカー』誌に掲載された記事をまとめたもので,邦訳のタイトルに採られた北京の胡同,万里の長城はじめ中国各地を巡った見聞から中国人・中国論である。市井や夢を追う中国人をアメリカ人の視線から綴っている。
江沢民から胡錦濤への交代を「中国共産党の指導者が自らの意思で身を引いたのはこれが初めて」(83ページ)と北戴河で冷静に観察する。奇石の話を織り交ぜて「中国には学ぶことが多すぎる。毎日,新しい教訓を得るのだ」(150ページ)と皮肉を効かせる。アメリカ人と中国人は似ているところがあり,自分たちは頭が切れると考え,「限りない楽観主義とエネルギーを共有し,新興の都市と都市を広い道路で結んできた」(251ページ)という。良くも悪くも「誰もが瞬間的に生きている」(278ページ)中国人の「現実主義者」(264ページ)としての一面が描かれていた。
冒頭の広東省蘿崗(ルオカン)の有名ネズミ料理店――この店にはヘビを龍に,ネコを虎に,ニワトリを不死鳥に見立てた「龍虎鳳(ロンフーフォン)」料理がある――の文章が『ニューヨーカー』誌掲載のきっかけだったという。たしかに下手物から始まってはいるが,生の中国を自分の目で観察した冷静なアメリカ人がいる。