1040今野浩著『工学部ヒラノ教授の青春――試練と再生と父をめぐる物語――』

書誌情報:青土社,204頁,本体価格1,500円,2014年9月25日発行

  • -

ヒラノ教授は順風満帆の学者人生を歩んできたように思っていた。若き日に博士号を取るべくスタンフォード大学ウィスコンシン大学での研究生活は,不眠症に陥ったり論文が酷評されたり散々な目にあっていたのだった。
「才能が50%,努力が30%,運が20%」との若い頃のヒラノ教授の人生訓は,博士号取得のためのアメリカ留学と本書で初めてふれる万年助教授だった父親の人生から,「運が80%」になる。不遇だった父親の経路と地震の猪突猛進とを重ね合わせたレクイエムになっていた。
数学者だった父親はある数学の定理を証明したが指導教員からは無視された。再証明したY教授がその後学士院賞を受賞する。証明競争に敗れた父親の真実を知るまでには50年経っていた…。
ヒラノ教授シリーズはエリート臭さががして評者の読後感は快指数45だった。父親の人生に思いを馳せ,人間模様の機微に触れた本書は快指数85に急上昇した。