1074孫歌著『北京便り――中国の真の面影――』

書誌情報:岩波書店,vii+205頁,本体価格2,300円,2015年1月22日発行

北京便り 中国の真の面影

北京便り 中国の真の面影

  • 作者:孫 歌
  • 発売日: 2015/01/23
  • メディア: 単行本

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『図書』2009年4月から2014年2月に連載された同名稿を一書にしたもの。ちょうど尖閣問題での反日デモと2011.3.11という大きな事件を間に挟んでいる。
出稼ぎ農民工子弟の教育,中国人の「契約」観,建築や芸術を通じた伝統の継承,テレビドラマの日本観・中国観の変化などを「普通の生活人の「中国」」を描写し,中国社会に必要な倫理性や民主主義の所在,国家を超える共同認識などを発見していた。
反日デモに参加する中国人もいれば「爆買」する中国人もいる。これとて13億の中国人のごく一部にすぎず,その他大勢の中国人の一端を伝えてくれる著者の断片のほうが正確な中国像に近いように思う。
著者は文革後第1回目の大学生で「77届」(1977年受験)であり,「下放」経験をもつ。著者の中国語は「明晰であるうえに,洞察の深さ,文章の美しさ,現実への関心の三者を兼ねそなえている」(平田昌司の「解説」,193ページ)とのこと。日本を中心とする思想史研究者の日本語はこの自国語での表現能力と無関係ではない。抑揚を抑えた冷静な日本語が印象的だ。