1182佐藤洋一郎著『食の人類史――ユーラシアの狩猟-採集,農耕,遊牧――』

書誌情報:中公新書(2367),vii+279頁,本体価格920円,2016年3月25日発行

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定住した人類は糖質とタンパク質を同じ場所で生産し,かつ一体的に調理し食べるシステムがあったという。本書の重要な考え方「糖質とタンパク質の同所性」である。モンスーン地帯では「米と魚」または「雑穀と魚」,欧州や西アジアでは「ジャガイモとミルク」または「麦とミルク」,欧州の大西洋側では「ジャガイモと魚」,インドでは「雑穀と豆」「米と豆」あるいは「雑穀とミルク」である。
狩猟・採集,農耕,遊牧という生業が互いに関係し合いながらかつ干渉し合いながらこの食をまかなってきた。われわれの多くは自らの食料を自ら生産せずとも生きていける。食材を生産する生業があってこそのことであり,社会的分業の結果でもありまた逆に社会的分業の原因ともなっている。
これら生業は「もともとフレキシブルで相互に依存的,補完的なもの」(225ページ)である。現代人のわれわれも時に耕し,狩のまねごとをし,木の実や植物を採り,釣りをする。
食と生業とはそこに生きる人間の食文化と風土とを規定する。「食の営みは,土を離れては,あるいは人と人との関係を切り離したところでは持続しえない」(272-3ページ)。