1224トリストラム・ハント著(東郷えりか訳)『エンゲルス――マルクスに将軍と呼ばれた男――』

書誌情報:筑摩書房,524頁,本体価格3,900円,2016年3月25日

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エンゲルスは第2インターナショナル大会で閉会の辞を述べた(1893年8月12日,チューリッヒ)。この瞬間を著者は「マルクスの影から踏みだし,彼自身の遺産を社会主義運動に刻んだ瞬間」(448ページ)と描く。「第2バイオリン弾き」と言われたエンゲルスの生涯がマルクスに寄り添い,時には仲違いをしながらも,ヘーゲルの思想の延長にあることでは同じ知的環境にあった。
空想的社会主義プロテスタントの尻尾を持ち,女たらしで貴族的趣味を持った人間でもあったエンゲルスを等身大に描出していた。同時に民主主義の成長にともなう新しい可能性に賭けたエンゲルスマルクスとは違う成熟を見いだしていた。エンゲルス評伝として読み応えのある一書だった。
訳者による「余剰価値」の訳語は敢えて使い分けたのかどうかは不明のままだった。