書誌情報:みすず書房,xxi+246頁,本体価格4,500円,2021年10月18日発行
フランクフルト学派といえば,ホルクハイマーやアドルノらの哲学的な社会批判で知られている。1923年1月に設立されたフランクフルト大学社会研究所はもともとマルクス経済学の立場からの研究が大半を占めており,10年ほどして所長になったホルクハイマー以降の独自の社会批判理論が当初からの研究所の方向性ではなかった。
本書は,これまで「比較的等閑視されてきた」フランクフルト学派における社会科学の位置と当時の社会科学者と政治との関係(「リアル・ポリティクスとの関連」)を5人から探り出している。「創設者 フェーリクス・ワイル」,「研究所の執事役 フリートリッヒ・ポロック」,「異邦人 ヘンリーク・グロスマン」,「越境者 カール・A・ウィットフォーゲル」,「闇をまとった学究 リヒアルト・ゾルゲ」である。研究所のみならず研究者のマルクス主義に立脚する学術と「リアル・ポリティクス」の追究は一環している。
初期の研究所の最大の貢献は,ドイツ社会民主党所有だったマルクス・エンゲルスのオリジナル手稿を学術研究として写真撮影したことである。戦前期に一度は挫折したマルクス・エンゲルス全集(Marx-Engels-Gesamtausgabe: MEGA)が国際的共同事業として取り組まれる基礎をつくった。
本書の構想は著者が1973年5月に研究所創設者フェーリクス・ワイルの講演を聴いたときに遡る。ワイルは,研究所設立前年の1922年5月の会合「マルクス主義研究週間」(チューリンゲン州イルメナウ)に「一人の日本人」が参加していたことに触れ,「社会研究所」の名称はこの「一人の日本人」が使った「社会の研究」あるいは「社会研究」に由来しているらしいとのことだった。ちなみに,本書の表紙にはこの時の写真が使われ,「一人の日本人」も映っている(本書中には「一人の日本人」が撮影した写真もある)。
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