1797石井妙子著『女帝 小池百合子』(その2)

書誌情報:文春文庫(い-88-2),479頁,本体価格1,000円,2023年11月10日発行

「『文藝春秋』に記事を発表した後,新聞記者の知人たちの反応は二つに分かれた。「証明しきれていない」という意見もあったが,より多かったのは,「そんなことは自分たちも前から知っている。でも,カイロ大学が認めている以上,書けないのだ」というものだった。私は彼らに聞きたかった。では,日本の新聞社でカイロ大学に正式に記録を求め,日本語学科以外から公式の文書として回答を得た社はあるのか。そもそも,そうした努力をしているのか,と。何を以て,「カイロ大学卒業」と書いてきたのか。北原さんの告発を,なぜ新聞社は初めから無視し,会おうともしなかったのか」(447ページ)。
マスコミにいくつかのタブーが存在するという。菊タブーや鶴タブーなどといったもので,素人の評者にもわかる。小池百合子東京都知事学歴詐称問題はさながら百合タブーだろうか。問題を知りながらそれ以上追求しないのは,ジャニーズ問題と瓜二つである。
小池の「カイロ大学卒,初の日本人女性」・「首席卒業」の売り込みをそのまま記事にした最初はサンケイ新聞(当時)1976年10月22日付記事である。紙面の4分の1,7段を使い,写真入りで「エスコート役(当時のエジプト大統領のジハン夫人のこと:引用者注)に芦屋のお嬢さん」,「小池百合子さん 令嬢とは同級生 カイロ大新卒,唯一の日本女性」とある。
東京新聞1976年10月27日付でも「この9月,日本女性として初めてエジプトのカイロ大学文学部社会学科を卒業し,10月中旬帰国したばかり」と同じく写真付きで取り上げられた。
朝日新聞夕刊1978年2月1日付では紙面半分以上を使い「小池百合子さんの大統領夫人会見記」を載せ,これとは別枠で日本人女性として初めてカイロ大学を正式に卒業したことを紹介していた。
小池が議員になってからは(1992年以降),『週間ポスト』「ミニスカートの国会報告」,『週間朝日』(2023年6月9日号で101年間の発行を休刊),『女性セブン』の3誌は連載コラムを提供した。これら雑誌はカイロ大学卒業をそのまま無批判に受容していた。
小池が世に出ることなった経緯として無視できないのは,サンケイ,東京,朝日が果たした役割であり,この3新聞は小池のカイロ大学卒業記載が正しかったのかどうかの検証責任がある。
小池はことあるごとに「カイロ大学は(卒業を)認めております」と答える。大学が認めない卒業ってどこにあるのだろう。答えになっていない。そもそも,件の「卒業証書」と「卒業証明書」につき,カイロ大学が発行したとは一度も言明したことがない。
きちんと卒業したのであれば,「成績証明書」を取得し,公表すれば問題は氷解する。「特別」に卒業したのであれば話は別だ。
ちなみに,評者は学部,大学院(修士,博士)ともすべて総代(首席ではない)だった。学籍番号が一番だったからにすぎないのだが。