1843笠原十九司著『南京事件[新版]』

書誌情報:岩波新書(2073),294頁,本体価格1,120円,2025年7月30日発行

南京大虐殺南京事件は実際にあったにもかかわらず,1990年代後半から南京事件を否定する松村敏夫や東中野修道らの本,右派政治家による歴史教科書や教育現場への攻撃によって,歴史事実と異なる,(虐殺数の)数字には「通説的な見解」がなく,おこなわれたのは「通常の戦闘行為以上でも以下でもなかった」ことが主張されるようになった。
本書は,海軍(航空隊と第三艦隊)による北支事変から第二次上海事変支那事変にいたる日中全面戦争に位置づけ,被害者,犠牲者の南京市民,難民の実態を日記や証言から明らかにし,南京事件における中国人被害者数(軍民)をより厳密に算定した。
本書を読むと,海軍は当初から参謀本部による南京攻略反対の段階から南京政府の屈服と中国国民の敗北を目的とする日中全面戦争を構想していたことがよくわかる。また,「中支那方面軍司令部が麾下の全軍(それもすでに多くが軍紀頽廃していた)を統括・統制する機関と権力を備えていなかったことが,南京事件を発生させる重大原因となった」(80ページ)。「皇軍」の実態がよくわかる。
「軍民合わせた南京事件の犠牲者総数については,日本軍関係の資料からは,8万人以上あるいは10万人以上,中国軍関係の資料からは約8万人,慈善団体等の埋葬資料からは,(長江にながされた犠牲者を除いても)18万8849人あるいは21万8849人という数字が導きだされる」(269ページ)。