012吉田文著『アメリカ高等教育におけるeラーニング――日本への教訓――』

書誌情報:東京電機大学出版局,x+243頁,本体価格3,000円,2003年3月20日

初出:コンピュータ利用教育協議会『コンピュータ&エデュケーション』第14号,柏書房,2003年5月30日

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アメリカの高等教育機関のうち62.5%はすくなくともひとつのeラーニング・コースをもち,遠隔教育を担当している教員の比率は学士課程で7.6%,大学院生で10.0%だという。62.5%は高い比率であるが,教員の比率からみるとその程度ともみることもできる。
本書は,「(アメリカの)高等教育システムにおけるITやeラーニングを批判的に検討」したものであり,「現実には必ずしもバラ色ばかりではない」ことを明らかにしつつ,サブタイトルに示されているように「日本への教訓」を導きだしている。
アメリカにおけるeラーニングを,組織形態,構成員,教育活動および評価の面からそれぞれ分析している。この分野を本格的に扱った本としてはたぶん最初のものではないかと思われる。企業経営へのシフト,対面教育との対立構図,リベラル・アーツの衰退,伝統的な学問知との衝突,予想を超えるコストなどeラーニングがもたらす影響は大きい。
日米の対比では,アメリカではすでに高等教育機関在学者の約半数が25歳以上の非伝統的学生であることから,eラーニングへの需要があるのにたいし,日本では多くは18歳の新卒者が対象とみられる。また,日本では営利大学の設立が認められていない(2004年3月からは株式会社立大学・大学院の設置が認められた:2007年3月10日補注)。著者の分析によれば,eラーニングのコスト計算と教育の質の問題とは避けて通れない。いずれにしても,アメリカで進行中のeラーニングを日本に無批判的に導入するのは許されないだろう。
本書の第3章には本誌第9号掲載の論稿もおさめられている。会員諸氏の検討に値する著作といえる。