015吉田文/田口真奈/中原淳編著『大学eラーニングの経営戦略――成功の条件――』

書誌情報:東京電機大学出版局,ix+209頁,本体価格2,700円,2005年3月20日

大学eラーニングの経営戦略―成功の条件

大学eラーニングの経営戦略―成功の条件

初出:コンピュータ利用教育協議会『コンピュータ&エデュケーション』第18号,東京電機大学出版局,2005年6月1日

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ITを大学の教育活動の諸側面に利用するという意味でのIT化は,あるかぎられた講義での利用から(第1次元),教育活動への部分的利用または教材のIT配信(第2次元)を経て,教育活動全般での利用(第3次元)にいたるだろうとされている。この方向へのIT利用が進んでいるとはいえ,これら3つの次元での利用には大きなギャップがあり,第2次元での利用も思いのほか進んでいない。「進むIT化と進まぬeラーニング」(1章のタイトル)とは日本の大学教育におけるIT利用の現状をあらわしているといえる。
「eラーニングで具体的に何をしているのかを書いた本は,意外なほどに見つからない」(あとがき)とあるように,日本の大学におけるeラーニングをこれだけ具体的に明らかにしてくれたところに本書の貢献がある
また,本書は共通の観点から事例をまとめている。eラーニングを技術とコストと教育効果の3つをキーワードに,大学組織という視点から分析したことがそれである。「第II部 国内大学eラーニングの成功事例」はすべてこの観点からまとめられた。「eラーニングによる教育と社会サービス」(東京大学),「個別学習型eラーニングの実践とシステム評価」(玉川大学),「産官学のアライアンスによる実践教育と教育国際化を目指すeラーニング」(青山学院大学),「eラーニングによる教養教育と生涯学習」(佐賀大学),「全額規模における大学院講義のインターネット配信」(東北大学)は,限定された予算で目的を達成しようとした事例(東京大学佐賀大学),研究プロジェクトして重点的に取り組まれた事例(青山学院大学),全学的な体制のもとで実施された事例(玉川大学東北大学)としてもまとめられる。
アメリカの先進事例を分析した「第III部 先進地アメリカからの示唆」は,eラーニングのテクノロジースペシャリストを明確にしており,日本の具体例(成功事例)をふまえた方向性を提示している。
「第IV部 キーワードの検証――成功の条件」は,うえの3つのキーワードをもとに,eラーニングが成功する条件として,大学経営上の戦略(eラーニングのグランド・デザイン)にあることを展望している。
eラーニングと大学経営戦略。双方に関心のある大学教職員必携の本ということができる。