034香山リカ著『なぜ日本人は劣化したか』

書誌情報:講談社現代新書1889,182頁,本体価格700円,2007年4月20日

なぜ日本人は劣化したか (講談社現代新書)

なぜ日本人は劣化したか (講談社現代新書)

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日本人は「劣化」しまくっている。それも全世代,全階層,全分野にわたってだ。活字,モラル,想像力,生きる力,社会(たとえばリベラリズム),寛容などが本書で取り上げている劣化の例である。著者によれば,それらの劣化は新自由主義が台頭して以来,前向きに,未来志向で考える「前向き思考」も,消極的な選択をする「後ろ向き思考」も,弱肉強食がもたらした負のベクトルである。
劣化は進化を含んでいないと著者は言う。劣化の病症を認識し,理念的なもの,あるいは社会的なものとの連結を持てば,これ以上の劣化を食い止める可能性があると診断する。「劣化の最終段階」には至っていないからだ。
劣化というタームで病状を暴くとともに,同じ人間の治癒力に期待している。劣化は引き起こされたものなのか,それてもみずから引き起こしたものなのか。著者の処方箋の正否はここにあるように読める。