033池尾愛子著『日本の経済学――20世紀における国際化の歴史――』

書誌情報:名古屋大学出版会,viii+352頁,本体価格5,500円,2006年4月10日

日本の経済学―20世紀における国際化の歴史

日本の経済学―20世紀における国際化の歴史

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経済学の日本への導入と受容の研究が経済学史研究の特徴である(著者は「伝播主義史観」と呼んでいる)。本書はそれとは別の視点から日本人研究者の国際貢献を扱い,導入や受容だけではない経済学史を描き,20世紀はじめ以降の数学化と国際化を検証している。もちろん従来型の導入や受容のほか,日本語によったための限界も指摘されている。
本書では,まず,藤沢利喜太郎(数学者),山崎覚次郎,神戸正雄,高城仙次郎らの国際金本位制導入時の活躍,福田徳三,中山伊知郎高田保馬らの新古典派経済学の展開時の分析,八木芳之助,杉本栄一らの計量的研究,柴田敬,安井琢磨,青山秀夫らによる理論的研究など戦前の日本の経済学を丹念に追跡する。さらに,戦後においては数学という国際共通言語を前提にすることによる競争均衡における一般均衡の安定条件についての貢献を,安井,園正造,青山,森嶋通夫らの研究で,同じく一般均衡の存在問題についての貢献を,水谷一雄,角谷静夫,二階堂副包,宇沢弘文根岸隆らの研究で,それぞれ明らかにする。
二階堂,角谷,K. J. アローへの直接インタビューと各種文書の調査をもとにした第5章は,二階堂によるワルラス均衡の存在証明,一般均衡研究史における日・独と米・仏との相違などを論じる。著者による創見である。
ケインズ研究やIMF,世銀などの国際機関における経済専門職の役割,さらには政策論争まで視野に入れ,数学化と国際化による経済学の特徴をまとめている。
本書は,評者も参加したプロジェクト――池尾編『日本の経済学と経済学者――戦後の研究環境と政策形成――』日本経済評論社,1999年,asin:4818810525,およびその英語版Ikeo, ed., Japanese Economics and Economists since 1945, Routledge, 2000, asin:0415208041において,それぞれ「マルクス経済学」,Marxian economicsを執筆した――も含め,日本人研究者の国際貢献と研究者の政策形成に強い関心を持ってきた。本書によって現代経済学がどのように発展し,制度化されてきたのかについて太い輪郭が描かれることとなった。
【追記:2008年3月19日および2009年8月27日】