032上島春彦著『レッドパージ・ハリウッド――赤狩り体制に挑んだブラックリスト映画人列伝――』

書誌情報:作品社,399頁,本体価格3,800円,2006年7月15日

レッドパージ・ハリウッド――赤狩り体制に挑んだブラックリスト映画人列伝

レッドパージ・ハリウッド――赤狩り体制に挑んだブラックリスト映画人列伝

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半年以上かかってようやく読み終えた。アメリカにおける赤狩りと聞けば,評者の頭にはすぐ経済学者クライン(Lawrence R. Klein)が思い浮かぶ。折からのマッカーシズムの嵐に巻き込まれたが,のちに『ケインズ革命』を著し,ノーベル経済学賞を受賞した(宇沢弘文『経済学の考え方』岩波新書,1989年,asin:4004300533に詳しい)。この赤狩りについては,ロービアの『マッカーシズム』(岩波文庫1984年,asin:4003422015)が詳しいし,ハリウッドとの関連については,陸井三郎の『ハリウッドとマッカーシズム』(初版筑摩書房,1990年,asin:4480855610),最近では映画を通してアメリカを分析した藤原帰一『映画のなかのアメリカ』(朝日選書795,2006年,asin:4022598956)がある。
本書には,多くの脚本家と俳優,監督,そして音楽家も登場する。映画界から追放された「ハリウッド・テン」だけでなく,「日本では無名の多くの映画人」が取り上げられている。誰もが知っている『ローマの休日』の,誰も知らないその作者のように,赤狩りという歴史的事件を通して描くアメリカ映画史と言っていい。
1998年アカデミー賞名誉賞を受賞したエリア・カザンが全員起立と拍手で迎えられなかったことからもわかるように,ハリウッドにおいてはレッドパージは過ぎ去った出来事ではなかったのだ。本書のもとになったのは,現在も書き続けられている「ハリウッド・ブラックリストライター列伝ノート」(http://www.esquire.co.jp/web/hollywood/)である。本書ともどもすばらしい仕事だ。