027グローバルCOEの報道を検証する

評者は15日にグローバルCOE採択を扱った(http://d.hatena.ne.jp/akamac/20070615/1181903271)。これを受けて購読している朝日と日経の記事を検証してみる。客観報道を旨とするはずの新聞でこうも違う。
まず,朝日新聞6月16日付(10版)。

卓越した拠点に予算配分
阪大首位,東大7割落選
文部科学省は15日,大学の優れた教育研究拠点を選んで予算を重点配分する「グローバルCOE(卓越した拠点)プログラム」の初年度の審査結果を発表した。採択件数では大阪大が7件でトップ。04年度まで3年間採択された「21世紀COEプログラム」で首位だった東京大は今回,申請の約3分の2が「落選」し,2位にとどまった=表(本ブログでは略)。
対象となったのは生命科学,化学・材料科学,情報・電気・電子,人文科学,学際・複合・新領域の文理5分野。111大学が計281件を申請し,28大学の63件が採択された。国立50件,公立3件,私立10件の内訳で,1件当たりの平均年間助成額は約2億6千万円。
計11件を申請した阪大は各分野でまんべんなく採択され,「採択率」は64%。宮原秀夫総長は「阪大の研究レベルの高さが認められた。これを弾みに世界の研究拠点としてさらに飛躍したい」との談話を発表した。
一方,東大は最多の19件を申請したが,採択率は32%。「21世紀COE」ではトップの計28件が採択され,採択率も55%だった。岡村定矩副学長は「21世紀COEを発展させた提案だけでなく,新しい提案も多く申請したが,審査では実績が重視されたため厳しい結果になったのでは」としている。
関西大は「21世紀COE」を含めて初めて,「東アジア文化交渉学の教育研究拠点形成」1件が採択された。河田悌一学長は「『関関同立』で唯一,採択経験がなかった。全学部の力を集めて臨んだ。感無量だ」と話した。

日経新聞同日付(12版)はこうだ。

優れた研究活動に資金
阪大7件 東大6件 京大6件
07年度,文科省63件採択 「国立優位」変わらず
文部科学省は15日,大学の優れた教育研究活動に資金を重点配分して世界レベルの研究者を育てようと今年度に新設した「グローバルCOEプログラム」で,28大学,計63件の研究を採択したと発表した。採択件数が最も多かったのは大阪大の7件で,東大と京大の6件が続いた。1件当たり年5千万―5億円を5年間支給する。
同プログラムは大学院博士課程レベルの研究が対象。2002年度の始めた「21世紀COEプログラム」を今年度から衣替えした。採択件数を「21世紀」の約半分に抑える代わり,1件当たりの年間平均支給額を従来の約1億3千万円から約2億6千万円に倍増させた。
国立大から200件,公立から22件,私立から59件の応募があった。採択された件数(採択率)は国立50件(25%),公立3件(13.6%),私立10件(16.9%)。COEプログラムはこれまで「国立優位」と指摘されてきたが,リニューアルした今回もその傾向は変わらなかった。
主な採択例は,安全な社会の実現に役立つ電子工学を目指す「セキュアライフ・エレクトロニクス」(東大)や,演劇の研究と映像の研究を統合する「演劇・映像の国際的教育研究拠点」(早大),格差の専門研究者を養成する「格差センシティブな人間発達科学の創成」(お茶の水女子大)など。2年後に中間評価,事業終了後に事後評価を受けることになっている。
文科省は今年度の支給分として計158億円を今年度予算に計上した。選考を担当したグローバルCOE委員会の野依良治委員長(理化学研究所理事長)は15日会見し「大学院生への経済的支援は非常に重要。高等教育は研究者個人のためではなく,国や社会のためにあるという認識を皆が持つ必要がある」と強調した。(採択大学・件数を国立・公立・私立に分けて表出:本ブログでは略)

朝日の記事の中心はグローバルCOEの採択率・落選率であり,朝日の品位を疑わせる。東大の採択率の低位さがそれほど問題か。採択された大学の取組を扱ってこそ新聞ではないのか。すべてまとめても28大学なのに,別表の採択大学・件数の表示も2件以上に限っている。21世紀COE時代から採択が旧帝大に偏っていることが指摘されており,地方国立,公立,私立の頑張りこそ強調してしかるべき事柄である。この程度の記事なら,いっそ採択大学・件数の一覧表だけ掲載してもらったほうがいい。評者の採点ではこの記事は下駄を履かせる誠意さも感じられないまったくの「不可」だ。この記事は記者の力量不足と何か批判的に記事にすればいいという手抜きを示す典型だ。
日経の記事はこれに比べるとはるかに質が高い。同じ4段の記事ながら,グローバルCOEの説明,今回の申請・採択状況,採択例,今後のスケジュールなどが端的に説明されている。ただし,日経には,朝日が強調した採択率(=落選率)の記事がない。東大の落選率を扱えば8件と11件申請しながら採択ゼロの大学にも触れざるを得なくなると判断したように思われる。日経にも,旧帝大優位のなかで健闘した大学への記事はあくまで添え物でしかない。評者の採点ではまずまずの「良」の評価だ。採択大学・件数がすべて表出されているだけでも報道の意味がある。