065塩野米松著『最後の職人伝――「手業に学べ」人の巻――』

書誌情報:平凡社,266頁,本体価格1,600円,2007年1月24日

最後の職人伝

最後の職人伝

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日本から消えつつある手仕事の現場での聞き書きである。稲のいのちを二度活かす藁細工(秋田県男鹿),水運の運命を操った道具である櫓(ろ)と櫂(かい)(大阪市港区),黒文字(木の種類)の自然力をひき出す爪楊枝(大阪府河内長野),掃除用具に宿る美のこころである座敷箒(ほうき)(山形県長井市),平安文化の美意識の結晶である簾(すだれ)(大阪府浪速区),和菓子の味を守る砂糖である和三盆(徳島県上板)がここでの手仕事である。手仕事には徒弟制のもとでの長年の修練が欠かせない。また,手仕事は手間賃仕事であり,冬の副業でもあった。最後の和三盆以外は分業などない一人ですべてをこなす手仕事だ。和三盆が完成するまでには杜氏と同じような職人集団(締め子や研ぎ師など)による。給料も作業工程も味の決め方もすべてこの職人集団が取り仕切る。長年の修練には無駄と試行も避けられない。
スミスを引き合いに出す必要がないほど,無駄な道に踏み込んだり,試行錯誤を繰り返し,道具の改良を重ねる手仕事の現場がある。効率や標準化がもたらす限界は現実の社会で実証済みである。手仕事から得られる先人の知恵と工夫は現代にも活かすことができる。手仕事を残すという意識的取組がなければいずれ消え去る。職人たちの淡々とした語りは貴重な財産である。