071ジョゼフ・キャノン著澁谷正子訳『さらば,ベルリン』(上)(下)

書誌情報:ハヤカワ文庫NV1137,(上)472頁,(下)533頁,本体価格各880円,2007年2月28日

さらば、ベルリン〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)

さらば、ベルリン〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)

さらば、ベルリン〈下〉 (ハヤカワ文庫NV)

さらば、ベルリン〈下〉 (ハヤカワ文庫NV)

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昨年ハリウッド映画として映画化され,今年9月22日に日本でも公開される同名映画(英文名=THE GOOD GERMAN)の原作。舞台は,第二次世界大戦直後のベルリン。ポツダム会談取材のためにベルリンに派遣された『コリアーズ』誌特派員ジェイク・ガイスマーのロマンスと殺人事件の物語だ。主人公ガイスマーは1936年のベルリン・オリンピック取材のためにベルリンを訪れ,その後もCBS駐在員としてベルリンと留まる。ここで人妻レーナ・ブラントと出会うが,41年ナチスによって国外退去を命じられ,未練を残したままベルリンを去る。
物語はポツダム会談前後の1945年7月16日から日本の降伏前後までのほぼ1ヶ月の出来事だ。レーナの夫エーミールは数学者であり,ナチス科学政策の中枢にいた。殺人事件とその解決はエーミールの頭脳(ナチスの科学者の代表者,またナチスの科学技術と読める)の利用をめぐるアメリカとソ連との戦後処理と絡んでくる。ナチス政権下のユダヤ人迫害と相互密告制の人間関係やベルリン解放後のソ連による略奪と暴行を物語の背景に描き,ドイツと枢軸国だった日本の戦況の断片をちりばめている。ナチス戦勝国家に翻弄される「模範的なドイツ人たち THE GOOD GERMAN」の運命は? 会話中心のストーリー展開も魅力のひとつだ。映画向きの小説かもしれない。
文中広島への原爆投下についてこう語らせている。「日本本土でこれ以上海兵隊員を犠牲にしたくないと思うのはあたりまえではないのか? 沖縄で彼らは,火炎放射器を使って洞窟から日本人をひとりずつ引きずり出さなくてはならなかった。」(下,72ページ)
シネマトゥデイ」による映画紹介→http://cinematoday.jp/movie/T0005375
DVDサイト(キャスト,ビデオクリップ,フォト,45年のベルリンなど)→http://thegoodgerman.warnerbros.com/