072鎌田慧著『やさしさの共和国――格差社会のない社会にむけて――』

書誌情報:花伝社,278頁,本体価格1,800円,2006年9月20日

やさしさの共和国―格差のない社会にむけて

やさしさの共和国―格差のない社会にむけて

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著者の,2003年から2006年にわたる論文,講演,エッセイ,書評をまとめたもの。小泉政権に代表される強者の論理に対して,個人を主体にいまよりはましな,しなやかな共生社会・共和国の実現をメッセージにしている。いじめによる自殺や過労自殺はときとして当事者の非をあげつらう。これこそ強者の論理であり,弱者も共存できる「やさしさの共和国」の対極にあるという。
著者の単著がすでにある大杉榮論と戦後文壇に影響力をもった『新日本文学』(著者が最後の編集長)論に,「やさしさの共和国」に連なる人間や組織にかんする構想が潜んでいそうだ。同郷の作家太宰治については彼の自由精神を評価することで「やさしさの共和国」に繋げている(『津軽・斜陽の家――太宰治を生んだ「地主貴族」の光芒――』初出:2000年,文庫版2003年:asin:4062737671,参照)。身びいきし過ぎる印象があるがどうだろう。
本書の性格上,著者の『自動車絶望工場』(asin:4061830961),『ドキュメント 屠場』(asin:4004305659),『反骨のジャーナリスト』(asin:4004308089),『狭山事件』(asin:4794213107)など一連の力作とは異なるのはやむをえない。