1706三宅勝久著『絶望の自衛隊——人間破壊の現場から——』

書誌情報:花伝社,220頁,本体価格1,700円,2022年12月5日発行

著者には,すでに『悩める自衛官——自殺者急増の内幕——』(花伝社,2004年9月,[isbn:9784763404299]),『自衛隊員が死んでいく——”自殺事故”多発地帯からの報告——』(花伝社,2008年5月[isbn:9784763405203]),『自衛隊という密室——いじめと暴力,腐敗の現場から——』(高文研,2009年9月,[isbn:9784874984284]),『自衛隊員が泣いている——壊れゆく”兵士”の命と心——』(花伝社,2013年7月,[isbn:9784763406705]),の4書がある。これでもか感を抱かないのは,元陸上自衛官の女性が2022年8月31日に実名でセクハラ被害を公表し告発したことがあったからだ(同年6月にインターネットで告発する動画を公開していた)。その後陸自は事実を認め5人の懲戒免職などの処分をおこなった。2023年1月には被害者が国と加害者の元隊員5人に計750万円の損害賠償を求める訴訟を起こした。
問題が顕在化後,防衛省が全自衛隊を対象に実施した特別防衛観察ではパワハラやセクハラなど約1,400件の被害申告があった。本書はいじめや虐待,自殺,不当捜査などに苦しめられた隊員や遺族の思いを報告し,過酷な労働環境の海自と海自輸送艦おおすみ」衝突事件の「真相」を追っている。
ある裁判での証拠提出公文書には,2015年度の防衛大学校での服務規律違反が157件,うち懲戒処分91件(刑法犯相当30件)だった。約1,400人が在籍する防大学生の40〜50人に1人が何らかの犯罪を犯したことになる。財務省財政制度等審議会・歳出改革部会(2020年10月16日開会)に防衛省が提出した書類には,「自衛官を増員する一方,自己都合による自衛官の中途退職者は,10年間で約4割増加し,年間約5,000人,これは毎年の新規採用者の約1/3に相当する自衛官が中途退職していることとなる」(147ページから孫引き)。
専守防衛」,「集団的自衛権」,「敵基地攻撃能力」と「守る」から「攻める」に変わりつつある自衛隊が,お膝元の自衛隊員を守れないとは。