1610松宮貴之著『「入れ墨」と漢字——古代中国の思想変貌と書——』

書誌情報:雄山閣,202頁,本体価格2,400円,2021年8月31日発行

皮膚に刺突したり切ったりしたうえで墨,煤,朱などを入れて着色した文様,文字,絵柄が入れ墨である。文様が簡略化されたものが文字の原型で,逆に文字の原形から文様へと進化したものもある。入れ墨には古い文字が残っているかもしれない。入れ墨が文字論や文学論として研究対象になるらしい。
郭沫若が甲骨文字の研究から殷代の奴隷制の発見をしたことから説きおこし,その批判的検討が本書であることを明示していた。墨刑と宗教性とのつながりを媒介に,文字と文様の応答研究がおもしろい。
他界へのパスポートだった入れ墨が,木簡文字へ,書へと昇華したとする史的展開が評者には新鮮だった。
「原始共産主義を理想化し,私有財産の発生から戦乱が生まれたとするマルクス主義」(148ページ)とはどんなマルクス主義だろうか。