1638エマニュエル・トッド著(堀茂樹訳)『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる——日本人への警告——』

書誌情報:文春新書(1024),230頁,本体価格800円,2015年5月20日発行

著者のフランスの雑誌やインターネットに掲載された8本のインタビュー集で,2011年の3本,2013年の1本,2014年の4本で構成されており,フランス民主主義の崩壊,ドイツの覇権の浮上,ロシアとの紛争の激化が主題となっている。著者は,ヨーロッパを,EUを牛耳っているのはドイツであり(「ドイツ帝国」の意味はここにある),クリミア半島問題に直面して「最近の危機は全面的に,ウクライナへのヨーロッパの介入と関係して」おり,「紛争が起こっているのは昔からドイツとロシアが衝突してきたゾーンだ」としている(23ページ)。
著者が描く「ドイツ帝国」の勢力図は,「ドイツ圏」(チェコオーストリア,スイス,スロベニアクロアチア),「自主的隷属」(フランス),「ロシア嫌いの衛星国」(スウェーデンエストニアラトビアリトアニアポーランド),「事実上の被支配」(アイルランドポルトガル,スペイン,イタリア,スロバキアルーマニアブルガリアギリシャ),「離脱途上」(イギリス),「併合途上」(ウクライナボスニア・ヘルツェゴビナセルビアモンテネグロアルバニアマケドニアジョージア),無法地帯(コソボ)である。さらに,ガスパイプラインの問題はウクライナを通過していることではなく,到着点がドイツであり,ドイツにコントロールされていることにみる。
ドイツにとってウクライナは「安い労働力市場として,自らの経済的影響ゾーンに併合すること」(111ページ)という。「今日,アメリカはドイツに対するコントロールを失ってしまって,そのことが露見しないようにウクライナでドイツに追随している」(117ページ)やロシアの「好戦的妄想に突然陥るような状態に在りません」(121ページ)との予見は外れたようにみえる。
フランスにおけるネオリベの正体を金融権力の超集権的性格にみて,ロスチャイルド銀行出身のマクロンの登場を示唆していたのは当たっている。
もし,著者が共和国大統領だったらの問いに,①ヨーロッパの保護主義的再編成について,ドイツ相手にタフな対話を始める,②主要銀行を国有化する,③政府債務のデフォルトを準備する,④国民教育省統括下の学校制度に新たに10万のポストをつくる,と答えている。「左翼プチ・ブルジョア風の平等意識」(223ページ)の著者の発言には耳を傾かせる何かがある。