123羽入辰郎著『マックス・ヴェーバーの哀しみ――一生を母親に貪り喰われた男――』

書誌情報:PHP新書(490),205頁,本体価格700円,2007年11月29日

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ヴェーバーは,気づかぬままに,その一生を,その精神性を,母親に貪り喰われた息子」(197ページ)である。「『倫理』論文というのは自分の母親の宗教思想を貶(おとし)めようという隠れた意味で書かれた論文」(120ページ)だという。前著『マックス・ヴェーバーの犯罪――「倫理」論文における資料操作の詐術と「知的誠実性」の崩壊――』(ミネルヴァ書房,2002年9月,asin:4623035654)でのヴェーバー『倫理』論文の「改竄」・「でっち上げ」の動機は,プロテスタンティズムの論理を体現する母ヘレーネへの反逆というわけである。
『倫理』論文がヴェーバーの実人生と重なるという指摘は著者の独創ではない。それだけでなく,著者は,ヴェーバー自身の精神疾患の淵源を母親との関係に,『倫理』の「改竄」・「でっち上げ」を彼女との葛藤にその動機を見る。『倫理』は近代資本主義成立の起源を論じたものではなく,母親殺し=自己解放のための作品だという著者の主張はあらためて論議を呼ぶことになろう。
前著については,折原浩が『ヴェーバー学のすすめ』(未來社,2003年11月,asin:4624400542),『学問の未来――ヴェーバー学における末人跳梁批判――』(同,2005年8月,asin:4624400569),『ヴェーバー学の未来――「倫理」論文の読解から歴史・社会科学の方法会得へ――』(同,2005年9月,asin:4624400577),『大衆化する大学院――一個別事例にみる研究指導と学位認定――』(同,2006年10月,asin:4624400585)において,論点とともに大学院における学位認定にいたる問題を提起している。著者は,現在校正中の『学問とは何か――『マックス・ヴェーバーの犯罪』その後――』(ミネルヴァ書房)で折原への反駁を展開するとのことだ。
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