1460今野元著『マックス・ヴェーバー——主体的人間の悲喜劇——』

書誌情報:岩波新書,ix+242+8頁,本体価格860円,2020年5月20日発行

今年はマックス・ヴェーバー没後100年である(1864.4.21-1920.6.14)。6月14日に急性肺炎で亡くなり(当時のバイエルン自由国ミュンヘン),葬儀は17日に妻マリアンネの意志により無宗教ミュンヘン東墓地で実施された。

本書は没後100年にふさわしく,ヴェーバーその人を丸ごと対象に(「人格形成物語」iiiページ),彼の生涯およびそれを取り巻く「歴史的文脈」(同上)を明らかにしている。早くも少年時代にはポーランド人イメージを醸成しポーランド人移動労働者の流入反対論を唱えた。社会ダーウィン主義に傾倒し,後に批判する「教壇預言」を実践もした。

アメリカ旅行ではかねてからの禁欲的プロテスタンティズムを実感し,宗教的卓越者(ゼクテ)や人種論への受容を決定づける。また,「学問から価値判断を排除するといいつつ,学問の出発点に個人の価値判断の存在を当然視するという,何とも複雑なヴェーバー価値論」(112ページ)を完成させる。

ヴェーバー官僚制論については,「効率的だが,個人の主体性を抑圧するという評価」(165ページ)に見るだけでなく,「自分のような傑出した人間に政治的任務がないのは「官僚制化」のせいだという個人的鬱憤もあった」(178ページ)と立ち入った議論を展開している。

著者は,さらに,社会主義革命を拒否し,徹底した西洋中心主義者であり,「精神的貴族主義」(212ページ)だったヴェーバーに,闘争的政治観,ドイツ・ナショナリズム,強靱な個人への期待,新興労働者層への期待,カトリック勢力への批判的姿勢,西欧に文化的中心の設定,統一主義,前衛芸術に対する態度からヒトラー「国民社会主義」につながる要素を指摘している。

「高踏派の人物像」(225ページ)ではない「疾風怒濤のヴェーバー像」(同上)は,「書簡などを用いて作品の背後にあるヴェーバーの生涯を整理」(226ページ)し,「思想研究と歴史研究との融合」(同上)したヴェーバー研究の「伝記論的転回」(同上および230ページ)を提唱している。ヴェーバーの主体性に「独立自尊」と「傍若無人」(「一つの人格の二つの側面」230〜231)を見て,知的巨人に挑むヴェーバー研究第三世代に注目だ。

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