1694折原浩著『マックスヴェーバー研究総括』

書誌情報:未來社,329+ix頁,本体価格4,200円,2022年10月14日発行

「姉妹篇『東大闘争総括』[未來社,2019年1月刊;[isbn:9784624400682]]ともども,後続世代の批判的な乗り越えに一素材は提供し,戦後の一時期を生きてきた責任は果たしたい」(「プロローグ」13ページ)との思いから,「自分個人の状況的企投とヴェーバー研究との関連」を問うた一書である。マルクス主義の「二項対立図式」の克服を実践しようとしてきた著者のヴェーバー研究総括である。一文に13行あるいは29行を費やしたり,引用あるいはゴチック強調などで一見読みにくさをはるかに凌ぐ著者独特の論理的展開は健在である。
ヴェーバー『経済と社会』編纂問題と「世界宗教の経済倫理」読解(ヒンドゥー教と仏教,儒教道教,古代ユダヤ教)を中心に,職歴と勤務,比較歴史社会学への志向を挟んだ研究総括は,評者のような素人をして一気に読了に導く緻密さと力強さがあった。とくに,キリスト教を基礎にした西欧型発展とカースト秩序の形成にむかったインドの発展とをヴェーバー読解によって著者の理解を展開した箇所は説得的である。
「邦訳を参照はしても,それに頼りきらず,つねに原典を傍らに置き,疑義が生ずるつど,原文と照合して,ヴェーバーの真意と(場合によっては)文献ごとの差異や転変も掘り起こし,確かめていく必要がある」(246ページ)。翻訳はときに翻訳者の主観・解釈が入ることへの批判が込められていた。
「エピローグ」でロシアに触れ,「「普遍的な[ゴチ:引用者注]諸要因の(ロシア特有[特有ゴチ:同上]の)個性的[ゴチ:引用者注]布置連関」」(328ページ)は,「「粗暴な独裁者」の民主的制御」(同上)にはとてつもない時間がかかると指摘している。ここは著者の読みが外れて欲しい箇所だ。
著者はヴェーバー「比較歴史社会学」のフィールド調査として15点の旅行記録・ビデオ作品があり,高校「歴史総合」にも活用してもらえるかもしれないとの思いで,ホームページで公開を予定しているそうだ(→http://hkorihara.com)。