008佐野眞一著『だれが「本」を殺すのか』

書誌情報:プレジデント社,461頁,2001年2月15日,本体価格1,800円

初出:コンピュータ利用教育協議会『コンピュータ&エデュケー ション』第10号, 柏書房,2001年5月31日

  • -

本とは,不急,時間消費型の商品(著者は遅効性のメディアと言っている)にほかならないのに,本の作り手も,扱い手も,読み手も速さをもとめている。川上から川下までいたるところで現在進行している本の世界の殺人事件は,この「時間の乖離現象」による。著者は,本書をつうじてこのメッセージを発しつづけている。
本にかかわる領域をくまなく渉猟しており,書店,流通,版元,地方出版,編集者,図書館,書評,電子出版をそれぞれ各章に配置した構成になっている。紙と活字とからなる本の現状をグーテンベルク以来の危機ととらえ,消費者のニーズに応えきれていない再販制と委託制の問題を抉る。また,その消費者である読者の性急な要求こそ本を殺すことになっているとも言う。
電子出版を最終章におき,本の世界で進行する殺人事件を解決する糸口にみているようにも読むことができる。本の世界を事件ルポルタージュとして描く著者の力仕事は多くのことを考えさせてくれる。
(評者のレビュー→https://akamac.hatenablog.com/entry/20070311/1173541610