1192佐野眞一著『唐牛伝――敗者の戦後漂流――』

書誌情報:小学館,295頁,本体価格1,600円,2016年8月1日発行

唐牛伝 敗者の戦後漂流

唐牛伝 敗者の戦後漂流

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週刊朝日』連載記事「ハシシタ 奴の本性」問題の当事者による元全学連委員長・唐牛(かろうじ)健太郎の評伝とは二重の驚きだった。「ハシシタ」問題については「反省と私なりの思いは,別のところに発表した」(プロローグ,5ページ)とし「再起」(同上)の書が本書と書く。だが,別の「登用・剽窃問題」については一言もない。ノンフィクション作家としてはこちらのほうが死活問題である。「別のところに発表した」かどうかは評者は知らない。
それを措くとしてもたしかに唐牛健太郎の「その後」に注目したことはノンフィクション作家の嗅覚を感じた。田中清玄からの援助,ヨットスクール経営,居酒屋店主,漁師,暴力団山口組との関係,徳田虎雄選挙参謀などを経験した唐牛の47年の軌跡は「その後」を漂流したかにみえる。唐牛とともに登場する60年安保闘争時代の「闘士」の述懐からはひとり唐牛の「漂流」ぶりが目立つ。「彼(唐牛:評者注)はその場その場で精一杯に生きた」(島成郎,192ページに再引用)のはたしかだろう。
唐牛を最後まで唐牛たらしめたのは1.16羽田闘争と4.26国会突入闘争時の全学連委員長という十字架だったように思う。