書誌情報:勁草書房,xviii+344+iv頁,本体価格3,200円,2010年5月20日発行
- 作者:大井 浩一
- 発売日: 2010/05/27
- メディア: 単行本
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2010年5月20日(本書の発行日)は日米安全保障条約が衆議院で強行採決された日だった(1960年6月19日午前零時国会で自然承認)。昨年で丁度半世紀,今年で51年目になる。
現役の新聞記者(62年生まれのポスト安保世代)による「同時代の一般の人々の目にどう映ったか」を60年当時の三大紙(朝日376万部,毎日347万部,読売329万部)から描いた歴史としての安保論である。これら三大紙が六〇年安保をどのように報じたのかと知識人たちの発言を通じて,六〇年安保を思想闘争としてではなくメディアでの報道をめぐるイメージ闘争として特徴づけている。それゆえ一般大衆からは徹底して消費され,ポスト安保の大衆運動の退潮につながったという。
安保闘争がその後民主主義擁護運動に転換していったことや多くの学者や文化人が安保反対に立ち上がったこと,ベ平連や70年代以降の市民運動に影響を及ぼしたことなどを抽出しながらも,著者の六〇年安保論はメディア(本書では三大新聞)をめぐるイメージ闘争と新聞の報道姿勢に集約しているところが特徴である。
「イメージ闘争が安保闘争の焦点であり,本質であった」(239ページ)とは,メディアの報道が人々の関心と行動を盛り上げ,それをまたメディアが報道し,世論形成に広がりをみせる「メディアを担い手とするイメージ闘争」(279-280ページ)をいう。マスコミが安保・反安保双方から批判の対象にされ,安保それ自体の是非よりマスコミ叩きに闘争の舞台が移されるという。岸首相を中心とする保守政権も反安保勢力もメディアからはそっぽをむかれてしまい,「真の勝者は存在しなかった」(337ページ)。岸も「未熟なメディアへの対応」(334ページ)に終始し,反安保勢力も「社会構造の把握を誤り大衆の動向をとらえ損ねた」(335ページ)のだ。
著者は「戦後史にニュートラルな関心を抱く現在の一般読者」(64ページ)を代弁し,三大紙での安保関係記事の扱いを分析する。そこからは,「(国民会議統一行動の報道の扱いが控えめであり:引用者注)一般読者の関心の低さを物語っていた」(52ページ)し,国会乱入事件記事から「一般の日本人が抱いたイメージ」(67ページ)を推し量り,南北朝鮮のイメージ(南:否定的,北:肯定的)も「1960年の日本人にとってごく一般的なものであった」(136ページ)。すくなくとも,紙面化された内容をもってこう論述展開するのは公平ではあるまい。「何を「面白い」と判断するかは,新聞側の編集意図がこめられる」(60ページ)と前著(『メディアは知識人をどう扱ったか』勁草書房,2004年,評者未読)と引き合いに出しているにもかかわらずである。
三大紙は「安保騒動の本格化した(1959年秋の)当初から各紙はニュアンスの差はあれ与野党双方の姿勢に批判を向け,左右どちらの暴力にも非難,懸念を示し」(308ページ),「七社共同宣言」(1960年6月17日)に見られるように偏向どころか「一般市民の感覚とさほどかけ離れたものでなかった」(318ページ)。左右の暴力暴発を未然に防止したことになるからだ。
「編集意図」をもっている新聞記事・報道の検証なくして著者の意図は貫くことはできない。六〇年安保が新聞を味方につけるべくイメージ闘争としてあったほど,当時の三大紙が客観報道に徹したとは思えない。
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