241倉橋由美子著『聖少女』

書誌情報:新潮文庫(く - 4 - 9),298頁,本体価格438円,1981年9月25日発行;2008年2月1日16刷改版

聖少女 (新潮文庫)

聖少女 (新潮文庫)

  • -

父と娘の近親相姦が主題の「禁忌の愛の物語」である。学生運動から離脱し,アメリカ留学を志す K を通した時代描写がいまひとつの主題と読める。丁度一年前『日経新聞』「私の履歴書」で青木昌彦が, K は青木自身をモデルにしているらしいことを否定しなかった(青木昌彦著『私の履歴書 人生越境ゲーム』→https://akamac.hatenablog.com/entry/20080809/1218272681)。青木の文章を読んで,あらためて倉橋由美子を想い,本書を繙いた往年の青年も多かったにちがいない。それを見越してか,今年になって改版して復刊された。
父(パパ)と娘(未紀)だけでなく,未紀と K, K と姉 L とのセックスをめぐる聖と俗とが主旋律である。それだけでなく,K や同じく元革命家たちの「革命ごっご」その後に倉橋の強い関心があったのは疑いない。『パルタイ』で「革命党」への幻影を払拭しえた倉橋には,強盗や強姦も「革命ごっこ」の反動として許される行為なのだ。だから,タブーとされている近親相姦を描くことは,ありえる愛の形の極致であり,徹底した現実批判のひとつの表現ともなる。
「アメタイ」からようやくヴィザがおり,K のアメリカ留学への道が開かれたところで倉橋は物語を終える。「数理計画やエコノメトリックス,ORに自動制御といった高級な知的遊戯」(111〜112ページ)もアンチ「革命党」であるかぎり,K の(青木の)『聖少女』後が肯定されることになるのだろう。