036石原千秋著『百年前の私たち――雑書から見る男と女――』

書誌情報:講談社現代新書1882,268頁,本体価格740円,2007年3月20日

百年前の私たち――雑書から見る男と女 (講談社現代新書)

百年前の私たち――雑書から見る男と女 (講談社現代新書)

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本書は漱石研究家による100年前の雑書を通してみた男と女の大衆史。大衆の世界とは「二流の知識人と二流の読者」によって成り立つ世界。当時ベストセラーになり,多くの同時代人によって読まれた雑書は,現代がそうであるように,われわれが自己認識できる対象でもある。そこで繰り広げられた言説は意外なほど現代的だ。一方で教養主義や市民的権利の要求がある。他方で旧来の伝統を墨守しようとする大衆紙誌がある。
本書の魅力はいまひとつ漱石作品の解読や文学史上の話題を織り交ぜているところにあるだろう。100年前の男と女の物語は,「父権制資本主義」(何度か出てくる著者の言葉)のうえに咲いたわれわれの物語でもある。