413三中信宏著『分類思考の世界――なぜヒトは万物を「種」に分けるのか――』

書誌情報:講談社現代新書(2014),328頁,本体価格800円,2009年9月20日発行

分類思考の世界 (講談社現代新書)

分類思考の世界 (講談社現代新書)

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著者は,古今東西の古典を繙き,エピソードを交え,分類と種にまつわる問題を,ときには地球を横断し,時には時空を行きつ戻りつ生物学者の苦闘を描く。分類はオブジェクトのパターンをわけることで体系化する思考と著者は言う。人間以外の生物をある基準でもって分ける生物分類学の系譜の検証作業だ。
分類とは人間の概念装置であり,客観物を認識するための手段だ。本書は,分類「学」という長い研究の歴史を辿り,科学史や科学哲学という科学を支える理念と方法論の開示を通じて人間の認知過程の苦闘を扱っているといえるかもしれない。
本書はそれゆえ分類と種という科学の姿を整えた以降の思考を対象としている。分類行為の根幹に,種が実体をもつかどうかという形而上学の問題と実体をどのようにみるかという認知心理学の問題とが横たわっていることをみて,生物分類学が生物学,形而上学認知心理学と重なりあう特徴をもっているとする。
「分類するは人の常」であるのが出発点である。認知心理的なカテゴリー化が人間の,科学的分類体系の根本である,という著者の主張は,社会科学の一端にぶらさがっている評者にも理解できた。資本主義の発展類型をイギリス型やオランダ型とするとか,上からの道や下からの道とするとか,先進国型や後進国型とするとかは,その端的な例だろう。
人間が動物であるかぎり,この動植物は食べられるか否か,毒を持っているか否か,薬として使えるか否かなどと生きるうえでのカテゴリー化を必要とし,対象物の認知や自然界の整理に発展したとは考えられないだろうか。なんらかの認知をしている動物にとっても,本能と日々の学習によってこのような意味での分類や種の区分をしているにちがいないのだ。
「分類する者は分類される物が本来もつであろう構造なりパターンを発見して,自然界を整理しようとする」(294ページ)。分類される物から分類する者=われわれ人間の認知バイアスへの問題転換。著者の博捜と構想が読者を行間に釘付けにしてしまう魔力を持つ力作だ。