127坂村健著『ユビキタスとは何か――情報・技術・人間――』

書誌情報:岩波新書(1080),ii+215頁,本体価格700円,2007年7月20日

ユビキタスとは何か―情報・技術・人間 (岩波新書)

ユビキタスとは何か―情報・技術・人間 (岩波新書)

初出:コンピュータ利用教育協議会『コンピュータ&エデュケーション』第23号,東京電機大学出版局,2007年12月1日(本エントリー掲載稿は最終原稿を元にしたもので,掲載稿と同一ではない)

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インターネットのつぎにくるインフライノベーションとしてユビキタス・コンピューティングを展望する書。技術的なインフラとしての輸送網とエネルギー網についてはほぼ確立された技術であるが,電話からインターネットへと大きく変化してきた情報網だけはこれからも大きな変化が続くと予想する。なかでもユビキタス・コンピューティングはすでに完成されてしまった技術ではなく,現在進行中の研究分野である。
本書はこのユビキタス・コンピューティングの可能性を中心に解説し,社会インフラであるがゆえのプライバシー,セキュリティの問題や法整備についての考え方を述べている。ユビキタス・コンピューティングに欠かせない電子タグは,もともと第二次世界大戦中の敵味方識別装置やアメリカのロスアルモス研究所における核物質管理システムからはじまっている。RFID (Radio Frequency Identification) 技術はその後商業利用に生かされ,非接触カードなどの応用も進んできた。ユビキタス・コンピューティングは世界を記述する試みでもある。人間にタグを付けるのではなく,人間が環境を読み取り,必要な場合に人間の方から環境にメッセージを出す。
ユビキタス・コンピューティングの実現は社会インフラ整備でもあることから,技術のみならず制度や組織の可視化も必要としている。ユビキタス・コンピューティングは次世代コンピューティングであるとともに次世代社会に深く関わっていることがよく理解できる。