460村井純著『インターネット新世代』

書誌情報:岩波新書(1227),xii+224頁,本体価格760円,2010年1月20日発行

インターネット新世代 (岩波新書)

インターネット新世代 (岩波新書)

  • 作者:村井 純
  • 発売日: 2010/01/21
  • メディア: 新書

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同じ著者の『インターネットI・II』(いずれも岩波新書,I: 1995年,[isbn:9784004304166]; II: 1998年,[isbn:9784004305712])は,インターネット草創期と成長期に出版されたものだった。本書は現状の確認と「成熟するには道が遠い」(223ページ)インターネットについて論じている。著者は,2005年ごろまでのインターネットの発展期とは異なって,現在は「地球全体を視野に入れて何ができるかということを考える時代」(220ページ)とする。
現状の確認はメディアの変容,無線とモビリティ,地球規模のインフラ整備(第1章から第3章)が,これからのインターネットについては地球社会論とグローバル空間論(第4章と第5章)が柱となっている。各章で現状と将来について論じており,必ずしも新世代論を論じているわけではない。全体を通じて,インターネットの理念と考え方,それを拡張させての可能性への言及に共感をもつ。
創作の対価を保障するビジネスこそインターネットで成立する(44ページ),すべての人を対象にコミュニケーション環境を整備しなくてはならない(49ページ),クライアントとサーバが連携して分散処理を標準的にできるようになった(92-93ページ),コンピュータを使っていることを意識させない段階に入りつつあること(「透明に近い抽象化により直感的に利用できる」(103ページ)),国という単位もグローバル社会の一員である(170ページ),「誰でもどこでも,なんでもつながる」時代になりつつある(204ページ)などのように,インターネットが人と社会の発展に寄与する意味を提示している。同時に,インターネットの中立性を特徴にあげ,「すべての人間がデジタルコミュニケーションの環境に参加できること,人間のさまざまな営みにインターネットが貢献する可能性を維持しながら,新しい世界を作り出す創造性の基盤であり続けなければならない」と「ネット中立性の原点」(218ページ)とインターネットがいま「折り返し地点」(221ページ)にあることを確認する。
進化しつつあることで予測できない21世紀のインターネットの基本線は本書で押さえることができるだろう。著者はかつて「インターネット『宣言』」――同名の著書はおもしろく読んだ。もちろんあの『共産党宣言』を意識してのことだ。1995年,[isbn:9784062074803]――をしたことがある。共通するのは,インターネットを創造し発展させるのは政府や国連などの組織ではないということだ。インターネットの技術を創造する人と享受する人が主人公である。コンピュータやインターネットを使っていながら使っている実感がない。われわれがその入口に立っていることは間違いない。
10年ほど前のインタビュー,「インターネット『宣言』,その後――村井純氏に聞く――」(コンピュータ利用教育協議会『コンピュータ&エデュケーション』第6号,柏書房,1999年5月31日,3〜7頁)が懐かしい。