019森岡孝二・川人博・鴨田哲郎著『これ以上,働けますか?――労働時間規制撤廃を考える――』

書誌情報:岩波ブックレットNo.690,55+17頁,本体価格480円,2006年12月20日

  • -

「日本版エグゼンプション」「ホワイトカラー・エグゼンプション」に対し,労働時間規制に守られない大量の労働者を生み出す制度である,とする立場からのブックレットである。このエグゼンプション構想は,ほぼ1年ほど前に提言されたものである。2006年1月27日,厚労省労働基準局長の私的研究会「今後の労働時間制度に関する研究会」から「新しい自律的な労働時間制度」,さらに4月13日の労働立法を審議する労働政策審議会労働条件分科会に厚労省「労働契約法制及び労働時間法制に係る検討の視点」がそれだ。6月13日には同じく厚労省が「労働契約法制および労働時間法制の在り方について(案)」を提案し「自律的労働にふさわしい制度」とした。また,11月10日には「今後の労働時間法制について検討すべき具体的論点(素案)」を提案し「自由度の高い働き方にふさわしい制度」とした。「エグゼンプション」とは「適用除外」という意味であり,「自律的」「自由度の高い」と名称を変えても,提案されている適用除外者の拡大の性格は基本的に同じである。
本書は,2006年6月13日に開催されたシンポジウム「日本版エグゼンプションを許さない」をもとに加筆され,資料を付加して刊行された。執筆者は,経済学者(森岡=株主オンブズマン代表),弁護士(川人,鴨田=日本労働弁護団幹事長)。論点は2点に尽きる。その1。自律的に働いている労働者はどのくらいいるか。その2。時間規制を外せば,自由度が高くなり弾力的に働けるようになるのか。著者たちは,8時間労働時間制と労働時間規制のもつ意味,現代日本の過酷な労働時間の実態をふまえ,これ以上,働けない,「死にいたるまで働いてはいけない」と主張する。
森岡の『働きすぎの時代』(岩波新書,2005年8月19日,ISBN:4004309638),川人の『過労自殺と企業の責任』(旬報社,2006年7月,ISBN:4845109905)は本ブックレットに先だって刊行された企業社会告発(企業社会をすべて否定していない)の書物である。